Purity of essence

文芸全般、主に映画と書評です

ヒューマンネットワーク(マシュー・ジャクソン)メモ2

 第五章分かれて住む

隔離は上から押し付けるもの、区別は対等なものらが自ら分かれていくもの(マルコムX)
インドのカースト制やアメリカの人種間の交流など、同類性は根強い。狩猟採集生活を行っていた最古の人類の間でも同類性が存在してた痕跡がある。

このあたりはある意味、多くの人がああそうだろうなと思っていたことがインターネット内の行動で暴かれたということだろう。

トーマス・シェリングゲーム理論の観点から分断の裏にある理論を構築した。ライフゲームに近いこの理論はシンプルだが、同類性による分断を強力に説明している(シェリングの分居モデル)

これは小さな偏りでも巨大な力になるということでもある。

同類性は個々の好みだけでなく、集団間の敵意や不信もまた影響を及ぼす。敵意や不信が強まれば集団内の同類性は強くなる。これはテロ事件が移住を促す事実が示している。スタンフォード監獄実験はアイデンティティが集団間の分断を煽るということがよくわかる。(この例では看守というアイデンティティと囚人というアイデンティティ

民族間がどれくらい分かれて住んでいるかを示す分離指数によると、分離指数とGDPは統計的に優位な相関関係があった。分離指数が低いほどGDPが高い。(これは民族だけではなく、世代や収入などの分離指数にも応用できるかも)

理由は分離度が高いと個々のグループが特定の利益をもってしまい、政治が対立的になってしまうからだと推測される。

 

第6章非移動性と不平等、ネットワークのフィードバックと貧困の罠

世代間所得弾力性(Aさんの親とBさんの親の収入の差がどれだけA、Bの子供に影響するかということ)が非移動性のいい指標になっている。また非移動性と不平等性は相関するということを示したグレートギャッツビー曲線がある。著者は不平等は非移動性による結果である、という観点で話を進める。根源的として同類性があり、同類性への圧力が機会や行動を狭め、その結果として、不平等が生まれる、ということ。

 

善い政治が行われている国では貧困を恥ずべきであり、悪い政治が行われている国では富裕を恥ずべきである(孔子

(しかし政治の良し悪しがわからなければ、そもそもどっちを恥じるべきかわからない気もするが)

ジニ係数の考案者はファシスト党員で優生思想の持ち主だった。そんな人物が不平等を示す指標の名前になるとは実に皮肉な話である。

ジニ係数は歴史的にはダイナミックに変化している、産業革命の時期に一気に不平等は広がった。その後、大戦と民主化と教育の質などにより、不平等は少しづつ改善してきたが、1980年代、テクノロジーの発展により、労働需要が押し下げられたことで再び不平等が広がった。生産性、無人化の両面でテクノロジーは職を奪っていく、欧米の中産階級の減少はグローバル化ではなく、テクノロジーによるものだと著者は主張している。実際にアメリカの雇用は製造業や農業では落ち込んでおり、新たに増えている雇用はサービス業ばかりである。

不平等が一気に広がった結果親世代よりも高い収入が得る子ども世代の割合はどんどん減っている。

トップ1%の富裕層であっても、その収入の3分の2は労働収益であるという事実、格差の問題は資産格差ではなく収入格差である。

高い収入を得るためになぜ高い教育を受けようとしないのか?その理由は非移動性にある。ここでアメリカの現状がたっぷり説明される。

資本はどんなものであれおおむね変換が可能だということ(金があれば教育を受けられるなど)ということは親から子へ渡すことも可能だということ。

職もネットワークが重要(これはグラノヴェッターの弱い紐帯理論と同じだろう)求人広告よりも知人の紹介から採用した人間のほうが長続きする。採用する側もわかっているから、知人のつながりを重視し、ツテを頼った採用をしようとする。知人の数は採用面接の成否にはあまり関係ないが、面接機会の回数には多くの影響を与えるだろう。機会が多ければ職を得る可能性も高まり、選択肢が増えればより良い職を得ることにもつながる。さらに同類性が加わる。つまり失業率の高い集団に所属すると、職を得る機会にはつながらない、逆もまたしかり。

さらに雇用主は同類性を用いて人材を探す。つまり優秀なプログラマーが欲しいならプログラマーに聞くのが一番だ。そして推薦やコネを使うことになる。

ドロップアウトゲームというシンプルなロジックで同類性が低いほうが伝搬は起こりにくい。同類性が高ければ高いほど同類内で影響を受けやすい反面、異なるグループへの影響は小さくなる(これは貴族平民分け隔てなく伝染病が伝搬する理由でもある、伝染病は貴族も平民も区別しないから伝染病から見たら人類すべてが同類である)

イスラエルキブツはメンバーの労働意欲の低下という、実に教科書通りの共産主義の問題で崩壊した。